空と海の彼方

機能不全家族のなかで育ち、アスペルガー症候群と診断が下りたみかんの日々を綴っています。ひっそりと暮らしたい。

映画「わたしを離さないで」 感想 ※ネタバレあり

 カズオ・イシグロ氏作のSF小説が原作となっている『わたしを離さないで』を見てみました。見てから日が経っているので少しうろ覚えです。
 
あらすじ
 「1952年 不治の病とされていた病気の治療が可能となり、1967年 人類の寿命は百歳を超えた」という言葉から物語は始まります。
 キャシー、ルース、トミーの三人が主要な登場人物になります。どこか閉塞感を漂わせる寄宿学校ヘールシャムを舞台に彼らの日々は繰り広げられていきます。学校ではギャラリーがあり、優秀な作品を決めたりしているようです。序盤に触れられたこのギャラリーがかなり重要な役割を担っていたことがラストで判明します。生徒たちの間では寄宿学校の外に出た生徒は、恐ろしい目(殺害される・餓死したなど)に遭うという噂が囁かれていました。
 女子同士の独特の付き合いが苦手なキャシーと癇癪持ちで周囲から浮いていたトミーは徐々に距離を縮めていきます。ある日、キャシーと仲が良かったはずのルースがトミーとキスをしているところ目撃してしまいます。
 寄宿学校の生徒たちは臓器提供のために作られた存在のようで、大体は三回か四回かの手術で一生を終えるということが知らされます。生徒たちに向けられた説明は、最後に「自分というものを知ることによって生に意味を持たせて下さい」との言葉で締めくくられます。
 メインの三人が18歳になった1985年に、寄宿舎から離れ、コテージと呼ばれる場所で共同生活を始めます。ルースとトミーは交際をしており、キャシーと彼らは微妙な関係になります。
 男女のカップルが本当に愛し合っていた場合、臓器提供まで時間の猶予をもらえるという噂を耳にします。臓器提供者である彼らの向かう先とは…。
 
感想
 映画を見ていて、まず映像が綺麗だと思いました。寄宿舎の建物も海の風景も印象的で、ポストカードで一枚欲しいと思うような景色でした。 
 
 コテージにてマースとトミーが付き合っているなか、キャシーは孤立を深めていきます。ルースはよくいる気の強い女の子かと思ったのですが、映画が進むにつれて弱さを見せていきます。特に印象的だったシーンが、キャシーに対して自分とトミーとの間に入り込む隙はないと言う場面です。本当に入り込む隙がないのだったら、わざわざこうしてアピールしないだろうし、彼女の弱さ(というか強がり)が表れているなと。
 コテージを出た後に再びトミーも加えて三人で時間を過ごすのですが、このときにルースがキャシーとトミーの仲が羨ましかった(確かこんな感じのことを言っていた)と伝え、ラストに近づいているこの場面はどことなく哀しさが漂っていました。

 最後の場面で、臓器提供によってルースもトミーも亡くなった後、キャシーが「私たちと私たちが助けようとした人たちの違いは何なのだろう」と言って、エンドロールを迎えます。
 映画のなかで、臓器提供のためのクローンである彼らの悲喜こもごもを見ていると、待ち受ける結末の残酷さが際立ちます。
 
 途中で出てくる「本当に愛し合っている男女は臓器提供までに三年の猶予期間をもらえる」という話は、あくまで噂でしかなかったことが映画も大分終盤に差し掛かったあたりで判明し、終わりを予感させます。「本当の愛」を証明したら~の件でおとぎ話を連想したのですが、ディズニー映画とかだったらきっとハッピーエンドだったのだろうなと思いつつ。

 ギャラリーを作った学校側の意図はクローンである彼らに魂はあるのか確認するというものでした。ここまで映画を見てきた結果としては、趣味が悪い実験だとしか思えないわけですが。
 ラストの問いかけに対して、恐らく臓器提供のためのクローンとオリジナルに大きな違いはないと思いました。違いがないからこそ、まっすぐ臓器提供者として死を迎える運命にあることが物悲しい。
 色々と思うところがあった映画ですが、上手く言葉にならないです。(汗)トータルではおすすめの映画になります、また原作の小説の方も読んでみたいです。